
誰もやっていないから面白い 石井康二(その2)
「入所している人たちのコミュニティに入ることが目的だった」
それは友だちを作りたくて部活に入る高校生と同じだ。先輩から受験勉強や恋人のつくりかたを覚えていく高校生のように、国リハでもバスケの仲間たちが、就職や生活に必要な障がい者ならではの悩みを相談し合っていた。
石井は杖などを使えば、ゆっくりと歩くことができた。そのため本格的に車いすを使ったのはバスケが初めてだった。
「スイスイと走れる爽快感が気持ちよかった」
そのことを体感して、すぐさま自費で車いすを購入。しかもそれは日常用ではなく、バスケ用車いすだった。
その後、工業デザイナーとして一般企業に就職したが、社会人生活はストレスも多かった。
「会社の人たちや健常者の友だちといる時間は、どこかで疲れてしまう。自分が障がいをもっているから気を使ってしまうから。けれども車いすバスケチームでは、障がいを気にせず心を開放できる。障がい者のことをわかってくれる人たちだから安心できる。僕にとってスポーツはそういう場所」
そういったスタイルの石井だから、車椅子ソフトボールも日本ローカルな楽しみ方をしている。健常者との混合チーム制で普及をしているのだ。ちなみにアメリカは障がい者だけの、スポーツとして発展してきた。
石井はドライブ好きだ。
「運転する方法は特殊だけれど、クルマを走らせている様子はみんな同じだから、僕が車いすの人だと誰も気づかない。ソフトも車いすに乗ってしまえばみんな同じ。障がいを意識しない環境だから夢中になれる」
アメリカの車椅子ソフトの競技団体は、パラリンピック種目にしようと活動しているが、石井はこれからも健常者を排除することなく、スポーツの仲間づくりをしていくつもりだ。
取材・文/安藤啓一
写真/辻野聡、安藤啓一