Home > Magazine >  スポーツしやすい社会を目指して(その2)
  スポーツしやすい社会を目指して(その2)

スポーツしやすい社会を目指して(その2)

一方、世界に目を向けると、国際知的障害者スポーツ連盟(INAS)が普及振興の活動をしている。1986年にオランダの専門家たちによって14カ国で発足。それが現在、80カ国以上が加盟する国際スポーツ団体にまで発展した。 1996年のアトランタパラリンピックでは知的障がいクラスも実施された。1998年長野パラリンピックではクロスカントリースキーで知的障がいクラスが行なわれ、日本選手が銀メダルを獲得した。 しかし2000年のシドニーパラリンピックで、知的障がいのバスケットボールの金メダルチームに多数の健常者が偽って参加していたことが発覚。この事件を受けて、パラリンピックへの知的障がい者の出場ができなくなった。 問題は知的障がいとスポーツの競技力との因果関係の立証だった。そこで判定基準の方法が整備され、2012年のロンドン大会から陸上競技、水泳、卓球の競技への出場が再開されている。 またINASはグローバルゲームズという、パラリンピックのような国際総合競技会も開催している。そこに日本人選手も参加しているのだが、INASの国内版組織が存在しないというゆがんだ普及環境にあった。そのことを野村さんらは解消したいと考えている。 活動を始めるANiSAは、各競技団体に加盟を要請するとともに、理事としても活動に参加してもらう考えだ。 おもな活動として、4つの事業を予定している。   1 育成   知的障がい児・者の健全な育成を目的とする事業/スポーツを通じた社会的活動(とくに重度障がい児・者への理解・啓発促進)   2 スポーツ支援   知的障がい児・者、関係団体及びスポーツ団体へのスポーツ支援を図る事業/情報の提供・翻訳業務・助成金申請の助言等   3 教育・指導者養成   知的障がい児・者、スポーツ指導者に対する教育と指導者養成を図る事業   4 国際大会への派遣および支援   知的障がい児・者、スポーツ団体の国際大会への派遣及びその支援を図る事業/ INAS への選手登録及びグローバルゲームズなどの大会への派遣手続き   知的障がい者のスポーツ参加にも心配なことがある。 「競技ごとに普及団体が活動しているものの地域的な偏在がある」と野村さんは指摘する。さらに、「知的障がいのことを理解した指導者も必要だ」という。 知的障がい者はコミュニケーションのしにくさがあり、言語指示が伝わらないと事故などのリスクが高まる。 また軽度の知的障がい者のなかには、一般の競技団体で選手登録しているケースもあるが、認知理解のスピードがゆっくりなので、健常者への指導についていくことが難しいなど、配慮が必要になる。 「知的障がい者も運動することで健康的な生活ができる。またスポーツの経験や出会いは自立生活の窓口となる」 ANiSAはトップアスリートだけでなく、これまでなかなか機会がなかった、重度・重複障がいのある知的障がい児・者にも、日常生活の中で運動・スポーツを行なえる環境整備や、そのための理解・啓発のための事業を展開していく予定だ。   文/安藤啓一 写真/安藤啓一、編集部


pr block

page top