ビーチ・パラの可能性(1/2)
―― 今現在、ビーチ・パラスポーツには、どんな競技があるのでしょうか?
実は、まだスタートしたばかりで、すでに競技として整備されているのは聴覚障がい者を対象としたデフバレーボールをビーチで行う『デフビーチバレーボール』だけだと思います。これまでに、多くのオリンピック競技が普及や発展のためにビーチへとフィールドを広げ、ビーチバレーボールやビーチサッカー、ビーチテニスなどに発展したように、パラスポーツへの関心や人気が高まる今、ようやくビーチにも目が向き始めたという段階です。
―― これからの進展に注目というわけですね。では、朝日さんは長年、日本における「ビーチの文化」創出に熱心に取り組まれていますが、これまでの活動内容や経緯について教えてください。
日本は長い海岸線を持ち、美しいビーチに囲まれています。でも、夏だけなど、十分に活用されていない面もあります。そこで、ビーチから日本を元気に変えていきたいという思いから現役引退後、「日本ビーチ文化振興協会」の理事長となり、海辺と触れ合う『はだしの文化』の推進や海辺環境美化活動などを行っています。
また、世界では海や砂浜を舞台にした競技の国際大会『ビーチ・ゲームズ』も始まっています。この大会の日本への招致活動の一環として、2014年から『ジャパンビーチゲームズフェスティバル(以下・JBG)』も主催しています。5回目となった今年も、5月3日から5日までお台場で開催。約4万人の来場者にビーチスポーツと触れ合い、楽しんでいただきました。
―― 今年は、新しい試みがあったと聞いています。
初めてパラスポーツをプログラムに盛り込んでみました。ビーチフラッグス競技を応用した「車いすビーチフラッグス」で、おそらく世界初の試みです。車いすに取り付けて引きやすくする補助装置『JINRIKI(ジンリキ)』を使って、車いすユーザーと健常者が2人1組になって、競走しました。子どもたちの、〝ビーチって、こんなに楽しいんだ〞っていう笑顔がうれしかった。私自身の世界観や価値観も大いに刺激されました。
――「JINRIKI」はスポーツ用具ではありません。斬新な発想ですね。でも、砂浜の上で車いすを動かすのは大変そうです。
それが、思い切ってやってみたら、砂の上の不便さなんて簡単に乗り越えられたんです。きっかけは、以前から交流のあった、元車いすバスケットボール日本代表の根木慎志さんの、〝僕、ビーチ大好きなんです。行ってみたい〞という言葉でした。ハッとしましたね。〝車いすで、ビーチに行くのは難しい〞と、僕たち健常者も、もしかしたら当事者の方々も思いこんでいたかもしれないな、と。これまでも、ビーチでのイベントではスロープなどハード面のバリアフリーを考慮してきましたが、本当の意味での受け入れはできていなかったように思います。いろいろな気づきがあって、とても勉強になりました。
―― たとえば、どんな気づきでしょうか?
障がいのある人と健常者がチームを組んでレースを走ってみたら、自然なカタチでコミュニケーションをとっていました。〝境界線〞なんてすぐになくなって、ゴールしたら互いの距離がグッと近づいていたのです。ビーチという空間が、開放的でワクワクする空間だからかもしれません。障がい者を理解する取り組みでは障がい者の日常を体験したり、付き合い方を学んだりと教育的なスタンスが一般的ですが、心の中にある〝意識の壁〞を取り払い、心のバリアフリーを広めるのに、ビーチスポーツには大きな可能性があると感じました。
それに、ビーチは健常者でも歩きにくいでしょう。つまり、移動の不便さという意味では車いすの人と同じです。だから、自然に互いを思いやれるのかもしれません。障がいの有無に関わらず、困った人がいれば自然に手を差し伸べます。段差をなくすハード面だけがバリアフリーではない。そう、気づかされました。
page top