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  タンデム自転車で湘南のサイクリングルートを走る

タンデム自転車で湘南のサイクリングルートを走る

自然豊かな日本をアクティビティで旅する「ジャパンエコトラック」(注1)。この取り組みに2023年12月に新規登録した神奈川県のサイクリングルート(注2)で、メディアツアーが開催された。今回の試走コースは、太平洋岸自転車道神奈川セクションと相模原~茅ケ崎サイクリングルートの一部。大磯港から柳島スポーツ公園、寒川神社を経由し、海老名運動公園までを走るコースだ。

スタート地点の大磯港

このツアーに視覚障がいをもつ西郷光太郎さんと黒澤美花さんが参加した。二人が乗ったのはタンデム自転車。観光地などで見かけることがある二人乗り自転車だ。前に乗るパイロットは廣田和彦さん、朝美さんご夫妻。2人はサイクルボランティアジャパンのメンバーで、自身も長年タンデム自転車を愛用し、以前は2人で、お子さんが産まれてからはファミリーでツーリングを楽しんでいるという。

ツアーにタンデム自転車で参加した左から黒澤さん、廣田朝美さん、和彦さん、西郷さん

タンデム自転車での公道の走行は各都道府県の条例によって規制されており、比較的最近まで公道を走れないエリアがあった。しかし徐々に緩和され、2023年7月にはその時点で唯一制限していた東京都が解禁。現在は日本全国の公道で走行が可能となった。

タンデム自転車の良いところは、2人に体力差などがあってもカバーでき、一緒に走れることだ。廣田さんご夫妻は、以前はそれぞれの自転車でサイクリングを楽しんでいたが、ペースが合わずに朝美さんが不機嫌になってしまうこともあったそう。「じゃあタンデムをやろうと。僕が力を補えば一緒に移動できますから」(和彦さん)とタンデム自転車を始めたと言う。

「タンデムを始めると、パイロットとして視覚障がいの方と一緒に乗ることが増えてきました。それで思ったのが『障がいの方でも後ろに乗ってしまえば、障がいがなくなる!』ということです。パートナーとして一緒にサイクリングするお友達になるんです。だから自分が支えているとか介助しているとかという気持ちはあまりありません」(和彦さん)

2人のお子さんを3歳くらいからサイクリングに連れ出しているという廣田さん。子どもたちと一緒に旅やイベントに参加できるのは、タンデムならではの良さだと言う。廣田さんのタンデム仲間には視覚障がいやダウン症の子どもを持つ親もいるそうだが、タンデムなら自転車の後ろに乗せて移動したり旅に出かけることができ、子どもの運動不足解消にも役立っているそうだ。

廣田さんの誘いで2年ほど前からタンデム自転車を始めたという西郷さん。「私は全盲なので、一人で道を歩くのも難しい。以前はマラソンをしていましたが、長続きしませんでした。でも、サイクリングだと長い距離をゆっくり走れるので続けることができています。結構な運動になるので体力がついて、肥満気味だった体も健康状態が良くなりました。そして、心が豊かになり、世界が広がったと思います。今の夢は東京の日本橋から京都の三条大橋までタンデム自転車で走ることです」

スポーツが大好きだった黒澤さんが視力を失ったのは5年ほど前。「目が悪くなり始めてからどんなブラインドスポーツだったらできるのか、いろいろ試してみました。そのなかの一つがサイクリング。見えないとスピードを感じたり、風を切ったりするのが難しくなるのですが、タンデムに乗せてもらうことで、私は風を取り戻せました。これだよな!と思えるものがすごくあったんです。風を感じる中から自然を感じたり、パイロットの方との会話から見いだせた新しいものを得られたりと、一石何鳥もの良さがありますね」。黒澤さんにとって、晴天のこの日、湘南の潮風を受けながら気持ちの良いツーリングだったに違いない。

廣田さん夫婦の愛車。ツーリング使用になっている

今回のツアーでは、KHSジャパンの協力で、タンデム自転車の試乗体験会も実施された。初めて乗る参加者も多く、初めは戸惑いも見られたが、自転車にまたいで漕ぎ出すと不安は即座に解消。あっという間にタンデム自転車の虜になり、皆気持ち良さそうに走っていた。

タンデム自転車の試乗体験会も行われた

障がい者のスポーツツールという点でも注目されるタンデム自転車。現在、日本パラサイクリング連盟を中心に普及活動が行われているものの、レンタルポートやパイロットのなり手が少ないなどの問題もある。障がい者にとってタンデム自転車はさまざまな可能性を秘めているだけに、環境がもっと良くなり、多くの人が楽しめるようになることを期待したい。

取材・文/編集部 協力/株式会社モンベル

注1 ジャパンエコトラック/「JAPAN ECO TRACK」とは、カヌー・自転車・トレッキングなどの人力による移動手段で、日本各地の豊かで多様な自然を体感し、地域の歴史や文化、人々との交流を楽しむ新しい旅のスタイルです。ジャパンエコトラック推進協議会は、旅行者が、このような旅を365日いつでも快適に楽しめる環境づくりを地域と連携して推進しています。(※ジャパンエコトラックHPより転載)

注2 神奈川県の取り組み/神奈川県は2023年12月ジャパンエコトラックの新規エリアに登録。全18(サイクルリングルート14)のエリア・ルート情報を公開した。箱根や丹沢の山々、相模湾の海の幸と湘南や三浦半島の絶景、古都・鎌倉や小田原城の歴史遺産など、多彩な見どころがある。

※「ジャパンエコトラック神奈川」の詳細は下記サイトをご覧ください。

https://www.japanecotrack.net/area/1113



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