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  いざパリへ!世界最終予選を勝ち抜いた車いすバスケ女子日本代表

いざパリへ!世界最終予選を勝ち抜いた車いすバスケ女子日本代表

オーストラリアとの出場決定戦に50対26で勝利!

16年前のパラリンピック自力出場を経験している網本麻里(中央)は若手選手を引っ張った

「やっと、やっ…」

やっと、なのか、やった、なのか。言葉にならない言葉が耳元に漂いながら、あとは嗚咽に変わっていった。

選手が引けた後のミックスゾーンに残った網本麻里に、「よかったね、おめでとう」と声をかけた直後のことだった。おもむろにバスケ車から立ち上がり、抱きついて、こうささやいた。どれほどの重圧があったのだろう。ただ、抱きしめて、小さな子どもをあやすように、「よかった、よかったよ」とささやき返すだけだった。

2024年4月17日(水)〜20日(土)、パリパラリンピックの出場権をかけた車いすバスケットボール女子最終予選が、大阪市にあるAsueアリーナで開催された。この大会には、日本を含む全8チームが出場、グループA(オーストラリア、アルジェリア、ドイツ、タイ)、グループB(カナダ、フランス、スペイン、日本)分かれて予選リーグを行い、その順位に基づきクロスオーバー戦が実施された。このクロスオーバー戦に勝利した4チームにパリ大会の切符が与えられる。グループBの日本は、17日にカナダ、18日にフランス、19日にスペインと戦い、1勝2敗の3位に。グループA2位のオーストラリアとのクロスオーバー戦で日本は50対26でオーストラリアを下し、パリパラリンピックの出場権を獲得した。

車いすバスケの女子日本代表は、3年前の東京2020パラリンピックに出場した。12年のロンドン大会、16年のリオ大会には出場が果たせず、2008年の北京以来3大会ぶりの出場だった。とはいえ、東京大会は、開催国枠による出場である。今夏パリで開催されるパラリンピックへの出場条件に開催国枠はなく、ゾーン選手権を勝ち抜いた国のほか、この最終予選で権利を得た4カ国の計8カ国がパリパラリンピックに出場する。だから、今大会には開催国であるフランスも遠く日本の地にやってきていたのだった。

北米、ヨーロッパは車いすバスケの激戦区である。カナダ、ドイツは、今大会でもダントツの強さを誇っていた。一方、スペインには、2022年の世界選手権で日本が勝利している。グループBの予選リーグでは、カナダには敗北を喫しても、フランスとスペインからは勝ち星を得てリーグ2位で最終日のクロスオーバー戦に臨むことを日本は目指していた。初戦のカナダ戦では46対81、フランスとの対戦では55対38。想定通りの結果である。ところが予選リーグ3戦目となるスペイン戦では45対64でまさかの敗北。グループ3位となり、最終日にグループAの2位通過であるオーストラリアと対戦することとなったのだ。

決定率の低さに苦しんだグループ戦

今大会、グループリーグでの日本代表の決定率の悪さに目を疑った。初戦のカナダ戦では、3ポイントを含むフィールドゴール成功率ではカナダが58.1%をマークしたが、日本は36.8%。フリースローでは、カナダが72.7%に対し日本はなんと15.4%にとどまった。網本は8本のフリースローの機会があったが、そのうち1本しか決められていない。萩野真世、柳本あまねはともに2本のフリースローを外した。

勝利したフランス戦でもフィールドゴール成功率は37.9%、フリースロー成功率も37.5%。負けたフランスのフリースローは、12本中8本を決めて66.7%を記録している。3戦目のスペイン戦では、主将の北田千尋とベテラン土田真由美がフリースロー成功率100%をマークしチームとして85.7%にまで押し上げたものの、フィールドゴール成功率は33.9%でスペインの43.5%の成功率の前に勝敗を分けた形となったのだ。

「萩野は、大会直前の合宿ではシュート成功率がめちゃくちゃよかったんですよ。だから、なぜ、ここまで悪い数字になるのか。初日に力んで距離感に狂いが生じたのではないかと思っています」

と、岩野博ヘッドコーチは語った。

12人全員で掴んだパリ行きの切符

グループ3位で最終日のオーストラリア戦に臨む日本には、当然後がない。負ければ、東京大会前に戻ってしまうのだ。

アジア・オセアニアの強豪チームとして、オーストラリアとはこれまでも何度も対戦してきた。世代交代が進むオーストラリアだったが、今大会には12年ロンドン大会で銀メダルを獲得した時の主将だったブライディ・キーン、04年アテネ大会からローポインターながらチームの要であったカイリー・ガウチらベテランが出場していた。

ゲーム序盤、両者とも得点が決まらない時間帯が続いたが、その後、網本、北田が躍動した。ディフェンスリバウンドから網本が放ったロングパスに北田がぴたりと反応して先制点をあげると、再び網本のアシストで4対0に。第1クォーター終盤には網本自身が3ポイントシュートを決め、13対4と大きくリードした。日本の守備は一貫して固く、メンバーチェンジをしても崩れることがない。また、ディフェンスでも、オフェンスでも、体格ではオーストラリアには敵わない日本が、リバウンドを取り続けて攻撃に繋げた。オーストラリアは、そんな日本の守備に翻弄され、8秒バイオレーションを繰り返すなど、明らかにオフェンスに迷いが生じていた。

前半25対7で折り返した後半には、網本は4本のフリースローをすべて決めたほか、オーストラリアボールをスティールして、仲間の得点に繋げた。そうして、第4クォーター残り3秒の場面、網本は北田をアシストして3ポイントシュートを決めさせ、パリ行きの切符を掴み取ったのだった。

今大会には、2022年のU25世界選手権で活躍した江口侑里のほか、高校生選手の小島瑠莉、西村葵も途中出場でチームに貢献した。U25の共同主将を務めた江口は、フランス戦の第2クォーターで途中出場すると、網本のアシストで3本、後半にも1本のゴールを決めて勝利を引き寄せた。「センターという役割を担っているので、交代したらとにかく1発目で決めることが仕事だと思っていました。考えすぎるとシュートが入らなくなるので、とにかくいつも通りに打つことだけに集中していました」

ベンチスタートから効果的な得点を重ねた江口侑里

また、小島もフランス戦でA代表初となる3ポイントシュートを決めた。この日は、自身16歳の誕生日でもあった。「誕生日に3ポイント決められて、試合後、チームの先輩たちからハッピーバースデーと言っていただけて、めちゃくちゃ嬉しかったです!」

この日が16歳の誕生日だった高校生選手の小島瑠莉

試合終了後、国際車いすバスケットボール連盟から正式にパリパラリンピック出場権のチケットを手渡された北田主将は、「今大会、高校生の若手選手からベテランまで12人全員がコートでプレーして切符を掴み取りました。そのことは、本当にすごく嬉しい。でも、今大会のような試合をしていたら、パリの本番では1勝もできない。自分たちの現実を見せつけられた大会でもあった。残り時間は少ないですが、できる準備をすべてやっていきたいと思っています」と、熱い気持ちを静かに語った。

キャプテンの北田千尋はパリ出場を喜びながらも、本番を見据えて気を引き締めた

さらなる高みを目指して

自力でのパリパラリンピック出場権を獲得した女子日本代表。自力での出場は、2008年北京大会以来、16年ぶりである。網本は、この北京大会を経験している唯一の選手だ。

「今回、初めてレペチャージ(最終予選)が行われた。開催国のフランスも含めて、どの国もすごく緊張して臨んだと思う。大事な一発勝負の場で結果を出すことができれば、パラリンピックや世界選手権という大きな夢の舞台に立てる。そのことを、若いメンバーにも伝えていきたい」

最終日には、数多くの観客がAsueアリーナに詰めかけ、日本はその声援にも後押しされた。

「会場には、車いすで応援してくれた小さな女の子もいました。その子たちが、こういう舞台に立ちたい、日本代表になりたいって思ってくれるように。それが続いていけるように、私はそのバトンを渡していきたいって思ってるんです」

2008年北京パラリンピックで、日本は銅メダルをかけた試合でオーストラリアと対戦し、47対53で敗退した。北京大会に19歳で初出場した網本は、3位決定戦が終わった後のミックスゾーンでも同じように抱きついて、震えながら泣きじゃくっていた。あの日、初出場のプレッシャーと闘った網本が、今は、若手を引っ張りながら、勝利のプレッシャーと格闘している。本番は、これから。退けたオーストラリアの分まで、あるいは、パリパラリンピックに出場できない男子日本代表の分まで、さらなる高みを目指していく。

取材・文/宮崎恵理 写真/吉村もと



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