オープンハウスグループのダイバーシティ推進活動(第2回/全2回)――「オープンハウスが築くキャリア1.5」
プロ野球ヤクルトスワローズのスポンサーとしても知られる総合不動産企業・オープンハウスグループ。前回記事(7月11日配信)でも紹介した通り、同社の障がい者雇用人数は100名を超え、雇用率は法定基準を満たす2.9パーセント(2023年6月1日時点)を達成している。そのうち、精神障がい者が全雇用障がい者の約70パーセントという多さだ。
7月25日、「パラアスリート雇用成功の秘訣」というテーマで開催された東京都主催のTEAM BEYOND CONFERENCEに、障がい者雇用を担当する同社オペレーションセンター部長の市川友和氏と所属パラアスリートの小須田潤太選手が登壇し、「オープンハウスが築くキャリア1.5」(※キャリア1.5について文末に説明あり)というテーマで障がい者雇用の事例紹介を行った。市川氏のコメントを辿り、同社の障がい者雇用について紹介していこう。(実際の発言と文章に多少の表現の違いがあるのでご了承ください)
2022年に障がい者雇用専門セクションとして「オペレーションセンター」を立ち上げる
「オープンハウスグループは1997年に創業し、現在の従業員数は約5000名です。戸建関連事業、マンション事業、収益不動産事業、アメリカ不動産事業の4つの事業を柱に展開しています。昨年度の売上高は約1兆1500億円という規模です。障がい者雇用や顧客満足の向上、あと女性活躍もそうですし、働き方改革も含めてガバナンスの強化にも積極的に取り組んでいます。
グループの障がい者雇用については、企業規模の拡大に合わせて近年すごく拡大していて、法定雇用率については規定を上回る状況を作っているんですけれども、2022年にグループ内の障がい者雇用を担う専門セクションとしてオペレーションセンターという部署を立ち上げました。メンバーのサポート体制強化などにつながる結果が出ており、雇用強化が実現しています。その結果、障がい者の定着率が95パーセント程度まで伸長していて、今後、障がい者の雇用率は3.0パーセントを目標にさらに強化している状況です。
障がいのあるメンバーの雇用拠点は現在、八王子、横浜、柏にあり、それぞれ駅からアクセス良好な場所です。バリアフリーな環境で、本社と営業拠点とあえて別にすることによって、落ち着いた業務環境を提供できています。また幅広いエリアで採用することが結果としてできていて、どの拠点でも順調に人員数が伸びています。昨年、横浜事務所を拡張移転したばかりですが、今後、八王子、柏の拡張や新規事務所の開設などを検討しています。
オペレーションセンターの組織体制としては、それぞれの拠点に複数のチームを設けていて、約80の業務を担っています。その中で、各拠点に常駐型のメンバーのサポートチームやバックオフィスチームを備えており、メンバーが安心して業務にあたれる体制を作っています。
また、当社の障がい者雇用の特徴の1つでもありますが、オペレーションセンター内の全役職のうち、85パーセントは障がいのあるメンバーが担ってます。健常者が障がい者を管理するような形ではなく、自走型の組織と言いますか、障がい者メンバーから積極的に役職者も登用して組織を作っていこうと進めています。
障がいのあるメンバーのキャリアプランのイメージとしては、マネージメント職を目指したいというメンバーもいれば、スペシャリストになりたい人もいて、さまざまな希望、キャリアイメージを持っていますので、それぞれの希望や適正特性に合わせた体制を整えています。
企業の成長に合わせて、障がい者雇用の幅や規模が年々拡大していまして、当然、問題や課題も合わせて持ってはいるんですけど、新たな制度や取り組みなどに今すごくチャレンジしています。今後もさらにチャレンジをしながら、可能性の幅を広げていこうという思っています。
また、今年10月の子会社化を目指してさまざまな社内の動きもしており、障がい者雇用日本一を真剣に目指して日々取り組んでいます」
小須田潤太選手のバックアップ体制と社内への波及効果
コミュニケーションデザイン本部ブランドコミュニケーション部に所属する小須田潤太選手は、東京パラリンピックには陸上選手として、翌年の北京パラリンピックにはスノーボード選手として出場した二刀流アスリート。現在はスノーボード一本に絞り、2026年ミラノ・コルティナダンペッツォパラリンピックでの金メダル獲得を目指して活動している。
2016年に正社員としてオープンハウスグループに採用された小須田選手。いくつかの企業の中からオープンハウスを選んだのは、給与以外に義足などの用具や遠征費などのサポート面が充実していたことが決め手だったと言う。
入社してからは一般職として勤務し、9時から6時までフルタイムで働いた後、夜や休日に練習を行っていた。その間に宅地建物取引士の資格も取得。しかし、2019年の東京パラリンピック1年前というタイミングで、もっと時間をかけて競技に集中しないとパラリンピックに出場できないという思いから、競技に専念することに。自分の希望に会社が真摯かつスピーディに応えてくれたことは、アスリートとして非常に大きなことだったという。現在はほぼ100パーセント競技に集中していて、出社は月に1、2回程度だそうだ。
小須田選手の社内での存在について、市川氏は次のようにコメントした。
「小須田のキャラクターとスポーツ、競技に向き合う真摯な姿は、やはり社員は見ていますし、社内報での発信などもあってグループ内ではかなり知名度が高いです。彼の存在によって社員のモチベーションアップなどすごくいい影響があり、社内が1つになったり、障がい者のメンバーも勇気づけられたり、グループにとってはすごくいい影響が出ていると思います。
当社はやる気のある人間を広く受け入れるというそもそもの理念があるんですけど、それ以外にも、例えばスピード感を重視したり、社内の文化としてどんどんリベンジしていこう、失敗しても次があるという文化がありますので、まさに小須田の競技に対する取り組みですとか、キャラクター、前向きなマインドがすごく合致してる例だと思います。今後、アスリートやパラアスリート雇用をどんどん強化していきたいので、小須田が今切り開いてる道をどんどん広げて行きたいと思っています」
一方、小須田選手は次のようにコメントした。
「入社時から応援してくださる方がものすごく多かったですし、競技レベルが上がるにつれて資金も時間も必要になってきますが、会社がそれに応えてくれて、パラアスリートの中でも恵まれてる環境に私はいると思います。そして、こうした環境で活動できているというのは、確実に競技の結果に繋がっています。まだまだアスリートとしては結果も物足りないと思いますし、本当に会社が私に与えてくださっている環境に対してまったくお返しできてないっていうのが自分の中にまだまだあるので、自分がやらなきゃいけないっていう気持ちがすごく引き出されます。
目標はパラリンピックの金メダルです。やっぱりアスリートである以上、結果を残すっていうところはものすごく大事なことだと思いますし、結果を出すっていうところにはこだわって、今後も全力でやっていきたいと思っています」
市川氏は、
「小須田が周りの人間どんどん巻き込んで、グループの中で仕組みを作ったり、応援団を増やしたりですとか、小須田の動きがグループ全体にいい影響をもたらしている状況なので、それをどんどん拡大していきたいですね。
競技に向けて取り組んでるマインドや姿勢とか、そういうプロセスを見させてもらうだけで十分いい影響はあるんですけど、やっぱり、金メダルというすごく大きい結果が出ると、さらに会社の後押しも強くなるでしょうし、みんなの思いもグッと1つになると思うんですよね。もちろんプロセスも重要ですけど、いい結果を出してもらって、さらにいい評価だとか、社内の勢いもそうですけど、自分自身の立ち位置を掴み取ってほしいなと思っています。
今、企業規模がどんどん大きくなっているフェーズなので、障がい者雇用についても当然拡大していきますし、その中の1つとしてアスリート雇用の体制もグループとしてはさらに強化していくことになると思います。そのためにも、さらに勢いづけるためにも、小須田にはぜひ頑張ってほしいですし、小須田を見てオープンハウスに入ってみたい、オープンハウスってなんとなくか活躍できるんじゃないか、私でもできるんじゃないかという人が1人でも増えてもらえると、小須田にとっても我々にとってもメリットがすごくあると思いますので、ぜひそのような形で進めたいと思っています。
障がい者雇用というのは、アスリートであるか否かを問わず、企業にとっては結構チャレンジだと思います。例えば視覚障がいの方を初めて受け入れる時どういう準備が必要なのか。ネットを見ればいくらでも答えは書いてあるんですけど、なかなかその通りに行かないことが多い。アスリート雇用もそれと同じで、形を先に作ってそれに乗っかるというわけではなくて、やっぱり雇用してみて、アスリートの本音だとか実態っていうものを確認しながら、企業側も制度だとか仕組みを作っていくっていうぐらいの柔軟性が必要だと思っています。形を作る、制度を作る、ルールをどうしようかっていうところを先に考えるよりも、まず最初にやってみるという方が大事だと思います」
オープンハウスグループの障がい者・パラアスリート雇用にこれからも注目していきたい。
※「キャリア1.5」/一般的に「1.5キャリア」という言葉があるが、これはアスリートとしてのキャリア(競技)から離れ、仕事のみを行うセカンドキャリアの"手前"にある状態を指す。オープンハウスグループではこの概念をさらに深め、企業の一員として一流アスリートの練習や試合を業務の一環として行い、人格を養い、経験を拡げ、将来的に組織にその知見を持ち帰って組織の拡大に貢献することで、組織ともwinwinの関係が築けることを目指すキャリア形成のことを「キャリア1.5」と位置づけている。引退後からではなく、現役アスリート時代から組織の風土や仲間と触れることで、本人には業務の慣習や知識を得られるメリットがあり、組織とも一体感がうまれ、後続のアスリート支援の土壌形成にも役立つという考え方だ。