
日本で初めて開催された「パラ水泳ワールドシリーズ」
4月10日〜12日、静岡県富士水泳場で「パラ水泳ワールドシリーズ富士・静岡2025」が開催された。ワールドシリーズは、世界パラ水泳連盟(WPS)が主催する国際大会のシリーズ戦。今年は、2月のオーストラリアを皮切りに、10月のペルーまで8大会が開催される。パラリンピックや世界選手権出場のための記録が認定されるほか、国際クラス分けも実施され、育成世代の選手の登竜門的な存在でもある。そして、富士・静岡大会は、日本で初めて開催されるワールドシリーズだ。
ワールドシリーズの特徴は、パラリンピックや世界選手権と異なるポイントシステムで競技が行われること。パラリンピック、世界選手権は、選手は属するクラスごとに競技・表彰が行われるが、ポイントシステムでは異なるクラスの選手が同じレースを競い、WPSが定めるポイントシステムの計算式によって順位が決められるというもの。冬季パラスポーツのアルペンスキーやノルディックスキーで採用されている係数システムに相当すると考えれば、わかりやすい。普段は、同じクラスの選手と競い合うが、このシリーズでは異なるクラスの選手と競い合うことになる。日本でのポイントシステムによる競技大会も、今回が初めてだ。
大会は、予選ヒートが行われ、そのタイムから1〜8位がA決勝、9〜16位がB決勝に進出。さらに、U-18の選手によるY(ユース)決勝が実施される。ユースの選手の予選順位がA決勝に入れば、Y決勝ではなくA決勝に進出できる。

山口尚秀が男子100m平泳ぎ(SB14)で世界新記録!


ハイライトは、大会初日にいきなり飛び出した。男子100m平泳のA決勝に出場した、SB14クラスの山口尚秀が、1分02秒64で世界新記録を樹立し優勝した。
「決勝前、スタート時刻が遅れてコールルームで長く待たされてしまい、気持ちが落ちたままスタートしました。展開としては、前半、もっと突っ込んでいきたかったのですが、力が出せず、でも、後半にペースを取り戻すことができました」と、語った。これまでの世界記録は山口が2023年3月に、同じ静岡県富士水泳場で出した1分02秒75。2年越しとなる記録更新だった。

一方、ユース世代の選手の中で活躍が光ったのが、17歳高校生の川渕大耀(S9クラス)だ。昨年、パリパラリンピックに初出場し、S9クラス男子400m自由形で7位に入賞。得意とする同種目が大会最終日の12日に行われた。予選では4分29秒59のタイムで、全体12位のタイムだったが、Y決勝では4分18秒16と、予選よりも10秒以上もタイムを短縮して優勝。今年シンガポールで行われる世界選手権出場のための派遣基準記録(21歳以下)を突破したことで、世界選手権への切符を手にした。
「予選では、決勝のために抑えて泳いだことでタイムを伸ばせず、A決勝に進めなかった。チームメイトのみんなが“一緒にシンガポールに行きたい、行こう!”と応援してくれたことで、最後の最後まで折れずに泳げました」と、喜びを爆発させた。
世界新記録を樹立した山口、21歳以下の派遣記録を突破した川渕のほか、パリパラリンピックで金メダルを獲得し今大会に出場した鈴木孝幸、木村敬一、また、今大会で派遣基準記録を突破した窪田幸太、辻内彩野、石浦智美、西田杏と、田中映伍(21歳以下)が、世界選手権の出場を決めた。
取材・文/宮崎恵理 写真/吉村もと