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  東京2025デフリンピックを前に、代表内定選手たちが国立競技場で躍動!

東京2025デフリンピックを前に、代表内定選手たちが国立競技場で躍動!

日本陸上競技選手権にデフアスリートが出場!

7月4日から6日に国立競技場(東京・新宿区)で開催された「第109回日本陸上競技選手権大会」で、東京大会日本代表に内定している選手などデフアスリートが出場した。開幕まで約4カ月となった東京2025デフリンピックやデフ陸上をPRした。

9月の「世界陸上」の代表選考会も兼ねた大会で、連日、1万人以上のファンが見守るなか、最終日にオープン種目として実施されたデフ男子100mには4選手が出場。東京2025大会で初代表に内定している荒谷太智(東海大学)が11秒18(-0.4)で制した。

「今年、世界陸上(9月)が開催される同じ会場で、緊張感がある中で走れたのは、いい経験になりました。日本選手権というお客さんが非常に多い状況の中で、デフの存在をアピールできて、すごくいい機会をいただいたと思います」

今大会は自己ベスト(11秒12)には届かなかったが、シーズンベストの走りを披露した荒谷。東京2025大会では400mに出場予定で、「スピードを強化中。11月のデフリンピックにピークを合わせたい」と前を見据えた。

11秒22で2位に入ったのは、足立祥史(松江市陸協)だ。昨年、台湾で開催された世界デフ陸上競技選手権大会で、4x100mリレー(金)と4x400mリレー(銀)でメダル獲得に貢献し、初のデフリンピックとなる東京2025大会でも活躍が期待されている。

「憧れの国立(競技場)で走れたのはすごくよかったです。雰囲気に飲み込まれないように、しっかりと自分の試合に集中できたことは収穫。スタートランプや手話通訳士がいるといったデフ陸上の特徴も観客の皆さんにアピールできたと思います」

今後はスタートからの加速をさらに強化し、「デフリンピック本番でもリレーメンバー4人に入れるように、しっかり記録を出してアピールしたい」と意気込んだ。

一方、女子100mは2選手が欠場したが、一人出場した門脇翠(東京パワーテクノロジー)が13秒72(-0.3)で駆け抜けた。「せっかく実施していただいたので、一人でも走ろうと思いました。国立で走る機会はなかなかないので、感謝の気持ちでいっぱいでした」

門脇は2013年サムスン(トルコ)大会以来、2大会目となる東京2025大会でリレーメンバーとして代表入りを果たした。「個人種目で選ばれず悔しかったですが、今は気持ちを新たに、本番で走れるように練習を頑張っています」と笑顔を見せた。

リレーではとくに「バトンパス」が重要だが、デフ選手の場合、掛け声でタイミングを合わせることは難しく、何度も練習を繰り返してチームワークを高めなければならない。練習時に撮影した動画を持ち帰り、イメージトレーニングも欠かせないという。競技歴約20年のベテランは、「メンバーには国際大会も初めての若手選手もいるので、(デフリンピックを)楽しめるように、積極的にコミュニケーションをとりたい」と力を込めた。

男子800mは2選手が出場し、樋口光盛(SMDE)が自身のもつデフ日本記録(1分53秒11)に迫る1分54秒49の好タイムで優勝した。東京2025大会は800mと1500mで初の代表に内定している。「(高温多湿で)不安はありましたが、会場の応援の力を借りて走ることができ、最低限55秒を切れてよかったです」

陸上競技は中学から大学まで部活動で取り組み、社会人になって以降も、縁あって健聴の大学生らと切磋琢磨しながら力を伸ばしている。ランナーとしての強みは「集団の中での位置取り」と言い、デフリンピックでは、「ラスト100mからの競り合いで金メダルを獲るところを見てほしい」とアピールした。

そんな樋口が自身のレース前に、「刺激をもらった」というデフアスリートがいる。大会初日(4日)の男子円盤投で57m45を投げ、3位に食い込んだ湯上剛輝(トヨタ自動車)だ。樋口が、「障がいがあることを感じさせない」と話すように、幅広く活躍するアスリートだ。4月にはアメリカの大会で64m48をマークし、自身のもつデフ世界記録と同日本記録を塗り替えたが、同時に健常者も含めた日本記録も更新する快挙だった。このように一般の陸上競技でもトップレベルであり、5月のアジア選手権では60m38を投げ、この種目で日本勢34年ぶりとなる銀メダルを獲得している。

デフリンピックは初出場だった2017年サムスン(トルコ)大会で銀メダルを獲得したが、2022年カシアスドスル(ブラジル)大会はコロナ禍により選手団全体が途中棄権したため、出場できなかった。8年ぶりの大舞台となる東京大会では世界一のビッグスローに期待がかかる。

「スタートランプ」体験会も

大会期間中、競技場外周では日本デフ陸上競技協会が「機運醸成ブース」を出展。スタートランプ体験やデフアスリートとの交流などで、東京2025デフリンピックの開催をPRした。

デフ陸上競技のルールは一般の競技とほぼ同じだが、スタートのピストル音がきこえない・きこえにくいため、音でなく光を使ってスタートのタイミングを伝える「光刺激スタート発信装置」を使う点が大きな特徴だ。短距離用は通称「スタートランプ」と呼ばれる装置が、中・長距離用は立位スタイルでも見やすい高さに設置される「スタンドシグナル」が使われる。「赤(位置について)」→「黄(用意)」→「緑(スタート)」と、ランプの色が変化する。

PRブースでは、この「スタートランプ」が体験できる「2mチャレンジ」も実施され、多くの人が挑戦。デフアスリートのパフォーマンスを支える技術を知る機会になり、「デフリンピックも楽しみになった」という声も聞かれた。

なお、東京2025デフリンピックは今年11月15から26日までの全12日間にわたり全21競技が19会場で実施され、すべての競技を無料で観戦できる。陸上競技は17日から25日まで全9日間で、駒沢オリンピック公園陸上競技場を主会場に、20日に男女ハンマー投げが大井陸上競技場で、25日に男女マラソンが首都高速道路高速八重洲線の一部と東京高速道路(KK線)跡地の周回コースでの実施予定となっている。

文・写真/星野恭子



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