
パラ水泳のレジェンド、河合純一氏がスポーツ庁新長官に就任。JPC委員長後任は三阪洋行氏
9月19日、文部科学省はスポーツ庁の新しい長官に水泳のパラリンピック金メダリストで日本パラリンピック委員会(JPC)の委員長、河合純一氏を任命すると発表した。河合氏は9月末で任期満了のため退任する現・室伏広治長官の後任として3代目の長官となる。スポーツ庁が新設された2015年以来、長官は初代の鈴木大地氏、2代目の室伏氏ともオリンピックの金メダリストだったが、設置10年の節目に初めて、パラリンピアンがスポーツ庁長官を務めることとなる。

河合氏は同日夕方、JPCが開いた会見の中で、「打診されたときに即答はできず、真剣に考えて悩みました。ですが、私がそういう立場になることで、スポーツそのものが障がいの有無を越えて取り組んでいくという国としてのメッセージとして、これほどのものはないと受け止めました。そのために自分の今までの経験が生かせるのならば、頑張るべきではないかと思い、チャレンジするという決断に至りました」と打診を受けるまでの胸の内を説明。さらに、「長官は初代が鈴木さん、現在は室伏さんとオリンピックの著名な方たち。バトンというより、重たいハンマーを受けとった気分ですが、与えられた役割をしっかりと担って取り組みたいです。私はスポーツの価値や魅力はもっともっとあると思っています。そういう部分を皆さんにどう分かりやすく伝えていけるか、考えていきたいと思っています」と重責を担う決意と覚悟を語った。
河合氏は静岡県出身の50歳。目の病気による先天性の弱視で、中学3年生頃に視力を完全に失った。水泳は5歳から始め、1992年バルセロナパラリンピックの水泳・視覚障害(全盲)クラスで初出場。以来、2012年のロンドン大会まで、同クラスに6大会連続で出場し、金メダル5個を含む合計21個のメダルを獲得。計21個は日本人選手としては史上最多のメダル獲得数となる。
現役生活と並行して、盲学校高等部を卒業後は早稲田大学に進学。卒業後は母校となる静岡県の中学校で社会科の教員も務めた。現役引退後は2016年に日本人として初めてパラリンピック殿堂入りを果たしたほか、日本パラ水泳連盟や日本パラリンピアンズ協会の会長などを歴任。2020年にはJPCの委員長に就任し、東京2020夏季大会、北京2022冬季大会でパラリンピック日本選手団の団長も務めた。
河合氏はパラアスリートとしての長い経験と実績を生かし、選手強化や普及のほか、競技環境の整備などを精力的に進め、パラリンピック界のリーダーの一人として存在感を発揮してきた。今後はスポーツ行政のトップとして、より幅広いスポーツの価値をどのように高め、広めていくのか注目される。
日本パラスポーツ協会の森和之会長は河合氏のスポーツ長官就任について、「大変嬉しく、同時に誇らしく思っています。河合氏は日本を代表するパラスポーツ界のレジェンドであり、日本のパラスポーツ界発展にリーダーとして大きな貢献を果たしてきました。(長官就任によって)一人でも多くの人が障がい者への理解を深め、パラスポーツを知り、親しむ機会が増え、我々が目指す共生社会を実現するさらなる推進力になると確信しています」と期待感を述べた。
車いすラグビーのパラリンピアン、三阪洋行氏がJPC新委員長に

河合氏のスポーツ庁長官就任を受けてJPCは9月19日、河合氏の後任となるJPCの次の委員長に、車いすラグビー元日本代表の三阪洋行氏を任命したと発表した。10月1日付で就任する。
三阪氏は大阪府出身の44歳。高校生の時にラグビー練習中の事故により車いす生活となったが、車いすラグビーと出会い、 わずか4年で日本代表に選出された。パラリンピックには2004年のアテネ大会から3大会連続で出場。2012年ロンドン大会は副主将として4位入賞を牽引。現役引退後の2016年リオデジャネイロ大会では、アシスタントコーチとして日本初となる銅メダル獲得に貢献した。アジアパラリンピック委員会の理事や来年に迫る愛知・名古屋アジア・アジアパラ競技大会組織委員会のアスリート委員会副委員長などを歴任。2021年より日本パラリンピック委員会(JPC)のアスリート委員として多様な活動に関わってきた。
JPC委員長就任について三阪氏は、「河合さんの後任が元アスリートであることに意義があると感じています。アスリートが主人公である環境づくりがJPCの仕事であり、アスリートの視点から透明性などを組織に取り入れ、より強固なものにしていきたいです。パラスポーツは支えるスポーツでもあります。アスリートだけでなく、周囲で支える人も活躍できる組織づくりにも尽力したいです」と決意を述べた。
パラスポーツ界にとって、今年11月には東京2025デフリンピック、12月にはアジアパラユース競技大会、来年3月にはミラノ・コルティナ2026冬季パラリンピック、同10月には愛知・名古屋アジアパラ競技大会など大きな国際大会が続く。パラスポーツの普及やパラアスリートの強化を担うJPCの委員長として三阪氏は、「東京2020大会を機にパラスポーツの認知は上がりましたが、河合さんの現体制を継承しつつ、アスリートが活躍できる環境づくりを全力で支援していきたいです」と意気込む。
また、スポーツ庁長官就任が決まった河合氏に対しては、「河合さんが進めていく政策で、パラスポーツの環境がどれだけ変わっていくのか楽しみに思います。我々も思い切った要望を伝えながら、ともにパラスポーツを通して社会の変革を起こせるような関係性を作っていきたいです」と期待を寄せた。
河合氏も、「(JPC委員長として)まだ取りくみたいこともありましたが、頼もしい後任である三阪さんにすべて託したい。私も新しい立場で、パラスポーツの普及振興に携わっていきたいです」と互いにエールを送り合った。

文・写真/星野恭子