
パラアルペンスキーのエース、森井大輝&村岡桃佳、ミラノ・コルティナ2026大会へ視界良好!
ミラノ・コルティナ2026冬季パラリンピックまで約4カ月となった10月30日、アルペンスキーで日本代表への推薦選手に内定している森井大輝と村岡桃佳が、ともに所属するトヨタ自動車主催の取材会に参加し、現時点での調整状況や大会への意気込みなどを語った。

45歳のベテラン、森井は過去6大会でメダル7個を獲得しているが、まだ金はない。「パラリンピックは毎回、大きすぎて、鼻息を荒くしてしまって失敗。気負わずに、心の底から楽しみきれたときに、一番いい色のメダルにつながると思います。機は熟しました」と闘志を燃やす。
村岡は過去3大会で金4個を含む9個のメダルを獲得し、“冬の女王”と呼ばれている。4回目のパラリンピックは、「3大会連続の金メダルを目指す大会」と位置づけ、「順調にコンディションを上げています。年齢を重ねるごとにパラリンピックの重さを感じます。責任、覚悟、プライドをもって臨みたいです」と見据える。
取材会では競技用具も話題に上がった。車いすユーザーの森井と村岡は競技ではチェアスキーを使い、ともに「身体の一部」というほど重視している。近年は同社開発部の協力も得て、チェアスキーの開発や調整に取り組んでいる。
競技人生で今が最高に楽しい!
森井は「人機一体」をテーマにチェアスキーの開発、調整に長年取り組んできたが、2022年の北京冬季パラリンピック後に改めて、「イチから見直し、フルモデルチェンジした」という。こだわったのは、「上半身の安定性」だ。上半身が不安定だと目線が安定せずに恐怖心が強まるし、次の動きに入るのが遅れてしまいタイムロスにつながるからだ。
膝の代わりに、斜面変化による衝撃を吸収するサスペンションは単純に上下するだけでなく、重心の動き方などから再検討し、ジオメトリーと呼ばれる取り付け位置にもこだわった。空気力学も考慮し、フレームやパーツの設計も見直した。
そうして作り上げたチェアスキーは、衝撃吸収性が高く、空気抵抗も減って身体への負担が大幅に減少。「時速100kmでも鼻歌まじりに滑れるし、思い通りに操れて、どんどんどんどん攻められます。めちゃめちゃいいスキーが初めて、できました。長い競技歴のなかでたぶん、『今が1番』って思えるくらいスキーが楽しいです」と白い歯を見せた。
これまでのスキーはスピードが上がるにつれてフレームが暴れだし、「危ない」と感じた森井が減速せざるを得なかったが、現在のチェアスキーは限界が高まり、「むしろ一生懸命に自分の限界を上げてスキーに合わせているような感じ。初めてチェアスキーと勝負をしながら滑っているというか・・・。それが本当に楽しい。親身になって開発してくださっている方たちに感謝したいです」とうなずいた。
ミラノ2026大会のコースは今年4月、「100㎞くらいは試走し、斜面の起伏などは頭に入った」という。高速で斜面変化も大きく、後半にはジャンプポイントもあり、過去6大会と比べて、「最高難度かもしれません。一瞬の気の緩みが、そのまま結果に繋がってしまうコース。スタートからゴールまで、どれだけ自分の思い描いたラインをトレースできるかが重要だと思います」と見る。
大きな武器となるのが、新調した自慢のチェアスキーだ。状況に応じてジオメトリーやサスペンションの硬さも変えられるほど、「変幻自在。高速系でも技術系でも十分戦えるだけのキャパがあります」と、高い信頼を寄せる。
実は今年4月、ミラノ大会を最後に競技の一線から離れる意向を示していた森井。だが、昨年11月の海外遠征中に折った右肩甲骨も順調に癒え、スキーも含めた順調な仕上がり具合に、翻意の可能性ものぞかせた。「今季を見て、今の自分がどう戦えるのかを見極めたいです。速く滑れるなら、辞める必要はないのかなって」
森井にとって、パラリンピックでの金メダルは悲願だが、まずは、「今シーズンの開幕戦が重要。しっかりと準備してピークを持っていく。で、そこからまた、どうしていくかを考えたいです」。唯一無二のチェアスキーとともに、7回目のパラリンピックイヤーを駆け抜けるつもりだ。
乗りやすいスキーになって、幸せ

チェアスキーの開発や調整はデータだけで行えるものでなく、選手個々の好みや感覚なども重要な要素だ。簡単ではないし、一律でもない。村岡のチェアスキーも基本的な設計やパーツは森井のものと変わらないというが、微調整を繰り返し、カスタマイズを進めている。開発部との協働体制について、「『こうしてみましょうか』と提案してくださったり、私が『こういうことをしてみたい』と言えば、『じゃあ、そうしましょう』って、雪上ですぐに全部やってくださる。だから、1本1本の(滑りに)変化が見えてすごく楽しいし、乗りやすいスキーにしてもらっています。やりがいが感じられて、幸せです」と充実感をにじませた。むあ
調整は今も継続中で、今後もさまざまなトライをしながら本番を迎えることになるが、12月上旬から始まる今季初戦で「自分の現在地がどの辺なのかを確認することが楽しみ」と、すでに手応えも感じている様子だ。今年4月上旬、海外遠征での雪上練習中に転倒して右ひじを脱臼し、じん帯を損傷したが、約1カ月半の入院、3カ月ほどのリハビリを経て練習に復帰。雪上トレーニング再開時にも「意外と滑れるな」と安堵し、現在は、「パラリンピックも問題なく臨めると思います」と順調な調整ぶりをうかがわせる。
ミラノ2026大会まで残り4カ月余りだが、「ずっとスキーのことばかり考えているとパンクしてしまうので、オフの時間もつくりながら、集中とリラックスで充実した期間にしたいです」。オフの楽しみは、「年間パスをもっている」というサンリオピューロランドでの息抜きだとにっこりした村岡。オンオフをうまく切り替えながら、決戦の舞台で最高の集中力を発揮できるよう高めていく。

取材・文/星野恭子 写真/トヨタ自動車(集合写真)、星野恭子