Home > Magazine >  ブラインドサッカーのコミュニケーション力
  ブラインドサッカーのコミュニケーション力

ブラインドサッカーのコミュニケーション力

ブラサカを活用した体験型プログラムの開発

障がい者スポーツ界ではユニークな資金調達方法

では、協会はどうやって資金を調達しているのだろうか。障がい者スポーツの組織は、行政からの助成金(強化費)に頼っているケースがほとんどだ。だがそれでは強化以外の事業はできず、予算も単年度であるため継続した事業が行なえない。そこで事務局長の松崎はまず「ブラインドサッカーを通じて、視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会を実現すること」というビジョンを定めた。そしてお金をいただく相手(スポンサー)を一緒にビジョンを具現化していく〝パートナー〟と位置付けることから始めたところ、東京パラリンピックの決定も追い風となり、パートナーが増え始めた。 次に取り組んだのが、ブラサカを活用した体験型プログラムの開発だ。14年から一般人向けに「OFF TIME」、企業向けに「OFF TIME Biz」を開始した。人は情報の8割を視覚から得ているとされる。視覚を遮断されると、ほとんどの人は歩くことすらできなくなる。ところがブラサカでは視覚障がいというハンディを言葉などのコミュニケーション能力で補わなければならない。それを日常生活やビジネスでのスキル開発に役立つように作られたのがこれらのプログラムだ。参加者は視覚を遮断したプログラムに参加することで、言葉などによるコミュニケーションの難しさや大切さに気づくことができる。そのため「OFF TIME Biz」は企業研修に積極的に取り入れられており、組織内の縦や横のコミュニケーションを円滑にするプログラムとしてさまざまな企業が活用する一方で、協会の収入源となっている。 もうひとつは「スポ育」だ。これは選手とスタッフが小中学校を訪問し授業を行なうもので、子供たちに思いやりや、障がいは「個性」であることを知ってもらうダイバーシティ教育プログラム。費用はパートナー企業が負担するので学校側は無料で受けることができる。16年度は491 件、2万130 人の子供たちが体験し、事業を開始した10年からの体験人数は10万人を突破した。 一方、長い間、障がい者スポーツは「タダ」で見るものという風潮があった。だが、スポーツの醍醐味のひとつが「感動」なら、そこに障がいの有無が関係するはずはない。協会は14年に開催した世界選手権で一部有料席を設けたのをきっかけに、さまざまな大会で有料席を設置し始めた。これはかなりのニュースとなったが、目的は収入ではない。障がい者スポーツにもお金を払ってみる価値はあるはずだという意識の改革だ。 最後に興味深い取り組みを紹介しよう。視覚障がいがある児童の運動能力は、健常者と比べて約6割というデータがあるのをご存知だろうか。そこで協会は「ブラサカアカデミー」を創設した。スポーツの楽しさを知ってもらう一泊二日の「キッズキャンプ」、、サッカーに特化した練習会「キッズトレーニング」、次世代の代表選手の育成を行なう「アスリート合宿」の他、スポーツ全般の楽しさを知ってもらう「スポーツ探検隊」などがある。これらの実施は確実に実を結び始めており、参加者のなかにはチームに選手として参加し、今年開催されたアクサブレイブカップに「選手」として登場した者もいる。 意外な魅力が詰まったブラサカ。知らないでいるにはあまりに惜しいこの世界を、一度体験してみてはどうだろう。


pr block

page top