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  シュートで魅せる。原田翔平【車いすバスケ】(その2)

シュートで魅せる。原田翔平【車いすバスケ】(その2)

目標は日本選手権での優勝

「その時にはドリブルのインパクトや体育館の匂いなど懐かしさはあったけど、取り立てて車いすバスケがしたいとは思わなかったんです」 リハビリを終えて埼玉ライオンズに入団して、少しずつ気持ちが変化していった。 車いすバスケを始めた当初、もち点は3・0だった。病状が安定せず入退院を繰り返すなかで、障がいの状態が悪化したという。病状が落ち着き、プレーに集中できるようになったのは、5年ほど前だ。 「バスケの醍醐味は、なんといってもシュート。自分のもち味は、まさにそこだと思っています」 日本選手権で準決勝や決勝に進めば、レベルの高いチームとの厳しい試合が続く。いかに遠くからのシュートを決めるか、瞬時に自分のフォームで打てるかに注力してきた。 今年、日本代表として海外遠征に参加して、さらにシビアな決定率を求めるようになったという。 「代表ではプレータイムが限られる。コートにいる間に打つシュート本数は少ないわけです。2本しか打たないシュートで2本外せば確率は0%。これでは相手の脅威にならない」 帰国後、練習を見直した。これまでたとえば10本のシュート練習で確率を確認していたのを、5本に限定して練習する。 「5本のうち1本決めたら、確率は20%。もし10本あって、残りの5本を全部決めれば60%に上がります。でも、5本の追加ができない状況では、最初の5本で60%の確率がなければ意味がない」 シュートの精度そのものを上げる練習も必要だが、厳しい状況でシュートを決める集中力も重要だ。また、トレーニングで筋力がアップすれば、シュートタッチの感覚を調整する必要もある。常に自分のシュートに向き合わなければ、目標とする決定率を維持することはできない。 冷静に何をすべきかを見極める。 「幼い時から自分と向き合うことに慣れているというか。自分自身をスカウティングしていますね」

王者の背中は見えている

そんな原田にとって、バスケ、車いすバスケの魅力とは。 「バスケって、誰もが主役になれるスポーツ。コートに5人、ボールが1個。そのなかでもとくに目を引くのがシュートですよね。車いすバスケでは、どうしても身体が大きく、動きのあるハイポインターに目がいきがちですし、プレーでもハイポインターにボールを集めることが多い。でも、僕がやりたいのは5人がそれぞれに活躍すること。選手のもち点なんか知らなくても、あの選手、かっこいいねというプレーがしたい。気づいたら、それは1・0の原田だった、というような」 そういうプレーを発揮して目指すところとは。 「日本一です。埼玉ライオンズの仲間と日本選手権で優勝すること」 しかし、それには大会9連覇中の宮城MAXという怪物が立ちはだかる。 「トーナメントで1試合も取りこぼさずに9年間。どんな世界だって思うけど、今は王者の背中が見えてきている。勝負できるところに来たという実感があります。いつ、その背中を追い越せるか」 虎視眈々と己の牙を研ぎながら、原田は最高のプレーを見せる日を心待ちにしている。   はらだ・しょうへい 1990年1月13日、埼玉県生まれ。埼玉ライオンズ、バカラ・パシフィック所属。小学5年でミニバスケットボールを始め、バスケで全国大会に出場したいと強豪の福島県立福島工業高校に進学。小学生の時からポジションはガード。16歳の時に脊髄腫瘍が見つかり、手術の後麻痺が残った。直後は立って歩くことができたが、病状の悪化に伴い車いす生活となった。リハビリ病院入院中に車いすバスケに出会い、退院後チームに所属。もち点は1.0   (写真/吉村もと 取材・文/宮崎恵理)


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