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  パラアスリートの軌跡⑯ ドリーム対談2/2 菊谷崇×池崎大輔

パラアスリートの軌跡⑯ ドリーム対談2/2 菊谷崇×池崎大輔

パラアスリートの軌跡 第16回目の後半となる今回も引き続き…ラグビー 菊谷崇選手とウィルチェアラグビー 池崎大輔選手のインタビューをお届け!(2017年11月発売号掲載。※現在とは異なる内容などありますがご了承ください) お二人の日本代表として活躍することの思いと責任。コンタクトスポーツの魅力を語っていただいています! ―日本代表の桜ジャージを着ることの名誉をどのように考えていますか。 菊谷 あまり多くのことを考えすぎないようにしていました。もちろん期待されていることは知っています。勝たなければならないとも思っていました。 桜ジャージに袖を通すことができるのは、自分の周りにいる人たちのおかげなので感謝しています。そしてジャージを着るからには、ラグビーは危ないスポーツなので、再び戻ってこられないかもしれないという覚悟で試合に臨んでいました。 池崎 それはもう、所属チームでプレイすることとはまるっきり違います。日本代表として結果をださなければならないと、強く思っています。コンタクトプレーが激しいからこそ、命がけの覚悟がなければコートに立てません。だからチームメイトにも日本代表ジャージを気軽に着せたりはしません。代表に選ばれてもらったジャージを着て試合に出ることは特別です。 菊谷 代表戦は、相手チームの意気込みも特別です。テストマッチもそうですが、ワールドカップで対戦すると、さらに違います。 池崎 だからラグビー選手は試合が始まる前に泣きますよね。 菊谷 ウィルチェアーラグビーでは泣きませんか。 池崎 自分たちは半ベソ泣きです。わははは。知り合いのラグビー選手から、試合前に涙がでてしまうと聞いて、何のことだろうと思っていました。それが、パラリンピックのロンドン大会とリオ大会に出場したら、試合前のコートで君が代が流れてきたとき泣きそうになって、こういうことなのかと分かりました。強い覚悟と思いがあるから、試合が始まる前の君が代で泣いてしまう。 菊谷 ラグビーでは試合前に国歌が流れます。多くの競技で君が代を歌えるのは金メダルを取った人だけですから。今は、ユースの日本代表で高校生たちのコーチをしています。僕がエディーさんから教えられたように、彼らにも君が代は声を出して歌おうと伝えています。試合では恥ずかしがるだろうなと思って、合宿のときに歌う練習をさせてみたら、まだ桜ジャージをもらえていないのに、手を胸に当てて歌っている彼ら姿を見ていた僕が泣いちゃいました。 * ―ラグビーには多くのファンがいます。注目されていることを勝利につなげる方法はありますか。 菊谷 プレッシャーは絶対になくならないし、それを感じないようにすることはできません。そして自分たちに明確な目標とそこへと至るプロセスがあれば、プレッシャーを力に変えることができます。15年のワールドカップで有名になったメンタルコーチの荒木香織さんは、僕たちが日本代表としてどのように見られたいのか、どのような日本代表になりたいのかと考えて、それを全員で共有するプロセスを大切にしました。そのことでチームの柱ができてきました。 2020年までの3年間は長いです。僕が日本代表をワールドカップ前年の14年に降りてしまったように、その日までたどり着かない可能性もあります。さらに大きな怪我をするかもしません。そういう時にも明確な柱があると、チームはぶれません。 池崎 東京パラリンピックまで日々、世界一になるための努力をしていきます。そのための環境づくりもしなければなりません。学校訪問やラグビー体験会に参加して、みなさんとコミュニケーションすることも自分の役割です。 自分たちがどれだけ頑張ったとしても、観客がいなければモチベーションが落ちてしまいます。試合をやるからには、たくさんの人に見てもらいたいです。 菊谷 観客がゼロでは、練習試合と同じですね。皆さんの期待を背負っているからこそ自分たちのモチベーションは上がります。注目されることは、選手にとってとても嬉しいものです。ラグビーは15年のワールドカップで人気が出ました。それを継続させることが重要です。大会で結果を出さないとニュースにしてもらえません。だから日本代表は結果を出すことが使命だと思います。 * ―話は変わりますが、ラグビーの魅力として語られるタックルはお好きですか。 池崎 車いす同士がぶつかるウィルチェアーラグビーでは肉体的なことよりも精神的に大きなダメージを受けます。僕たちのタックルは身体には当たらないから痛くありません。ちょっとした衝撃と音がうるさいだけ。けれどもその衝撃の強さによっては、もうこいつのタックルは受けたくないといった精神的なダメージを与えられます。そうすることで相手のパフォーマンスを落とすことができます。 菊谷 いやいや、半端ない衝撃ですよ。 池崎 測定器でタックルの強さを計測したら30Gだと言われました。 どんなものでも粉々にするだけの破壊力があります。 菊谷 うははは。 ―最初は競技用の車椅子で体験したのですか。 池崎 そうです。そのマシンも汚い。フレームは黒くて傷だらけ。すごく暑いのにグローブまでして、ボールもバレーボールだしと、冷ややかに思ってました。 菊谷 わははは。 池崎 身体障害のために握力がなくても、滑り止めのついたグローブで力を補っていると説明してもらいました。ボールも皮がざらざらとした滑りづらい専用球を使っています。よく考えられているなと思いました。小ぎれいな競技ではないけれども、泥臭さにも惚れこみました。 菊谷 バスケからラグビーに転向して、よかったですか。 池崎 まさかアスリートとしての人生を歩むことになるとは思っていませんでした。自分にこのような取り柄があって、それを開花させてくれた人たちには感謝の気持ちでいっぱいです。自分1人では、ここまで来られませんでした。良い出会いに恵まれ、良い環境にも巡り会えたことで今の自分があるわけです。ウィルチェアーラグビーの体験会は、僕にとって試合開始のゴングでした。 ―菊谷さんはうれしそうにタックルしてくると聞きました。 菊谷 長い年数、ラグビーをしてきたけれど、タックルはすごく嫌い。ボールを持って走る方が好きでした。ポジションはFWですが、ステップを切って相手をかわすようなプレーが好きです。 タックルなんて怖いじゃないですか。それを克服するには、フィジカルだけでなくメンタルも鍛えること。ここ数年は、俊敏に動くアジリティが落ちてきたから、タックルが好きになってきました。ウィルチェアーラグビーの車いすは傷だらけで、戦うマシンというイメージですね。 池崎 傷跡が残っている車椅子がかっこいいから、ぴかぴかの新車は恥ずかしいですよ。早くぶつかって傷を作りたいってなります。 菊谷 根っからのコンタクト好きなんですね。 池崎 海外の試合では、タックルで相手を吹っ飛ばすと盛り上がります。それが日本だと、障害者にぶつけて、大丈夫なのかと心配されてしまいます。 池崎 菊谷さんがおっしゃるように、フィジカルとメンタルの両方が大切です。気持ちで負けたら、試合には絶対勝てません。向かってくる相手には、こちらから向かっていく。強豪国のアメリカやオーストラリア、カナダの選手たちは身体がでかいけれど、その体格は生まれ持ったものだからしょうがない。けれども気持ちはみんな一緒です。そこは絶対、強く持っていなければ勝てません。 菊谷 コンタクトスポーツだからこそ、仲間と深い関係になります。そして思いが強いから、試合前に泣いちゃう。 池崎 仲間との深い絆はボディーコンタクトがあるからこそ。東京パラリンピックに向けて頑張ります。
菊谷 崇/きくたに・たかし 御所工業高校から大阪体育大学。卒業後は実業団のトヨタ自動車で13シーズン、プレーした。2014年にキヤノンとプロ契約。現在までキヤノンイーグルスでプレーする。日本代表では、05年のスペイン戦で初キャップ、08年のアメリカ戦から主将。11年のワールドカップ・ニュージーランド大会でも主将。一旦は日本代表を退くが、エディー・ジョーンズ新監督から代表復帰を要請され、14年までプレーする。トップリーグでは9月に150キャップを達成。今季限りでの現役引退を表明している。 池崎大輔/いけざき・だいすけ 岩見沢高等養護学校の出身。車いすバスケットボールから、30歳のときに転向。2008年にウィルチェアーラグビーと出会い、2009年から北海道ビッグディッパーズでプレーする。2010年に3.0クラスの日本代表に選出され、現在までチームのエースとして活躍。ロンドンパラリンピック(2012年)、リオパラリンピック(2016年)に出場。リオ大会では強豪カナダを下して銅メダル。手足の筋力が低下する難病。三菱商事社員。3人の子育てをしながら東京パラリンピックでの金メダルを目指す。
撮影/水谷たかひと、安藤啓一 構成・文/安藤啓一


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