
デフサッカー男子、国立競技場で初マッチ。デフリンピックの金メダル目指し、JFLクリアソン新宿と強化試合
4月2日、サッカーの聖地、国立競技場で歴史的な一戦が開催される。聴覚障がいのある選手によるデフサッカーの日本男子代表が、日本フットボールリーグ(JFL)のクリアソン新宿とエキシビジョンマッチを戦うのだ。

この試合は、今年11月に日本で初開催されるデフアスリートの祭典「東京2025デフリンピック」に向けた、デフサッカー日本男子代表の強化と大会機運醸成などを目的に行われる。日本デフサッカーにとって「聖地」での試合は史上初となる。
日本代表の世界ランキングは6位(2025年1月時点)だが、2023年には19カ国が参加して行われた「第4回ろう者サッカー世界選手権」で初めて決勝に進出した。ウクライナに1-2で敗れたが、準優勝はチーム史上最高の順位だ。東京デフリンピックではその上、つまり初の世界王者を目指している。東京デフリンピックのサッカー競技は、男女ともJビレッジ(福島県)で実施される。
「デフ」とは英語の「deaf」で、きこえない人、きこえにくい人を意味する。デフサッカーの基本的なルールは11人制サッカーと同じだが、プレー中は補聴器など支援機器の使用は禁止されていることから、「音のないサッカー」という愛称で呼ばれる。
選手はそれぞれのきこえ方でプレーするため、主審は笛だけでなく、フラッグ(手旗)も併用して視覚的にも合図する点が大きな特徴だ。国際試合ではさらに、両ゴール裏にも一人ずつ審判員が配置され、合計5人のフラッグを持った審判員が多方向からプレーの停止などの情報を選手に伝える工夫をしている。
選手同士やベンチとのコミュニケーションには、手話やジェスチャー、アイコンタクトなどを駆使する。監督は戦術ボードを使って指示を与えることもあるという。練習の積み重ねによって培ったチームワークで、連係プレーやセットプレーなどを巧みに実行し、ゴールを狙う。
歴史的一戦に向け意気込み

1月28日には、エキシビションマッチ開催の記者会見が国立競技場で行われ、デフサッカー男子日本代表を率いる吉田匡良監督が大会開催の経緯を説明した。昨年5月の監督就任以来、競技に真摯に取り組む選手たちの姿を目の当たりにし、「選手一人ひとりからパワーを感じました。選手たちをもっと日の当たるところに出させてあげたいという思いを強くしました」
そこで、面識のあったクリアソン新宿の丸山和大代表取締役CEOに相談したところ、同チームの北嶋秀朗監督も快諾。今回のエキシビションマッチ開催が実現したという。
吉田監督は、「国立といえばサッカーの聖地。ここで試合ができることは、本当に幸せです。デフリンピックの認知度はまだまだです。試合に来てもらえれば、健聴者と何も変わらない、『本当に耳がきこえないの?』と思ってもらえるパフォーマンスが見られるはずです」と力強く語った。
日本代表の松元卓巳主将は、「僕は日本代表が19年目。以前は代表の練習といえども、学校の校庭や土の公園でやっていたので、サッカーの聖地で試合ができることは夢の夢でした。支えてくださる方々には感謝の気持ちでいっぱいです。11月のデフリンピックで世界一を目指して日の丸を背負うので、どこが相手でも負けていい試合はありません。ガチンコで試合ができればと思っています」と意気込んだ。
古島啓太副主将は、「デフサッカーの知名度はまだまだなので、この試合を通じて盛り上げられるように頑張りたいです。JFLというカテゴリーのチームと試合をするのは初めてですが、世界一を目指す上で勝たないといけないと思う。結果にこだわってやっていきたいです」と力を込めた。
対戦相手のクリアソン新宿は、国立競技場のある新宿区を本拠とするクラブチームだ。「クリアソン」はポルトガル語で「創造」意味し、「サッカーを通じて世の中に感動を創造し続ける存在でありたい」をミッションに掲げている。
北嶋監督は、「僕らも本気で戦って、デフリンピックで優勝してもらえるような一つの力になれればという思いもある。対戦をとても楽しみにしています」と話した。須藤岳晟主将は、「本気で戦うことでお互いに学びがあると思う。勝利に向けて戦っていきたいです」と熱戦を誓った。
なお、観戦チケットは2月10日に販売が開始された。全席自由で、前売り券は大人2500円、高校生は1500円、中学生以下は無料となっている。「観客1万人」を目指しており、エキシビションマッチのほか、デフスポーツ体験ブースなど会場イベントもさまざま予定されている。
憧れの聖地でデフサッカーの魅力も伝えたい男子日本代表と、その思いを受け止め真っ向勝負を誓うクリアソン新宿。注目の一戦は4月2日午後7時にキックオフだ。熱戦が期待される。
▼観戦チケット(イーサイト公式サイト)
URL: https://eplus.jp/japanfootballlive20250402/
取材・文/星野恭子
写真提供/日本ろう者サッカー協会