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  グランドスラム優勝、そして東京2020へ 国枝慎吾(その1)

グランドスラム優勝、そして東京2020へ 国枝慎吾(その1)

  今年1月に開催された全豪オープン、国枝慎吾はステファン・ウデを4-6、6-1、7-6(7-3)で下し、3年ぶり9回目の優勝を果たした。第三セットはタイブレークまで持ち込み掴み取った渾身の勝利だった。 かつては無敵を誇っていた国枝だが、グランドスラム優勝は2015年の全米オープン以来。2016年のリオパラリンピックではダブルスで銅メダルを獲得したものの、シングルス三連覇を逃している。3年という長いトンネルから、この全豪優勝でようやく抜け出すことができた。 「勝利の味を思い出した。次は全仏での優勝。その先には東京パラリンピックがある」 グランドスラム優勝から長らく遠ざかっていた理由は右肘のケガ。いわゆるテニスエルボーだ。強烈なバックハンドで世界に君臨してきた国枝だが、その代償として右肘は悲鳴を上げた。リオパラリンピック前には2度目の手術。肘関節のクリーニングをしたものの、痛みが引くことはなかった。 「リオはきつかった」 痛み止めを打ち出場した、当時のことをつぶやくように振り返る。 「ケガさえなければまだ勝てる自信はあった」 それは右肘の故障を抱えたままでは、もう一度グランドスラムで優勝はできないことを意味する。 リオ後の11月からテニスは完全休養。出場を予定していた大会はすべてキャンセルした。4ヶ月間、一切ボールを打たなかった。ケガの不安を抱くことなくコートに立てることが目標だった。 そして翌年2月下旬、もしかしたら完全に痛みが消えているかも知れないと期待して、久しぶりにラケットを握りコートへ出た。しかし、淡い期待はもろくも崩れた。 「右肘の痛みは残っていた」 そしてこの痛みこそが国枝に最後の決断をさせた。フォームの改造だ。 今までと同じフォームを続けていたら、休養して痛みが治まっても再発する可能性がある。そこでトップ選手たちのバックハンドを研究した。リオパラリンピックで金メダルを獲ったアルフィー・ヒューイット(以下、ヒューイット)は、国枝とは違うグリップのバックハンドで攻撃的なテニスをしている。車いす選手に限らず、高めのボールを狙って打ち込める攻撃的なバックハンドは現在のテニスの主流。これまでバックハンドを武器にしてきた国枝は、この新しいバックハンドを手に入れて、ボールの威力を強化したいと考えた。 同時に右肘への負担を減らそうとした。これまでのバックハンドはインパクトの瞬間に手首が曲がり肘の外側にストレスがかかっていた。そこで手首を曲げないグリップに変更。トレーナーとも相談して、痛みのメカニズムを理解したうえで改造に取り組んだ。 それは新しいフォームにしていいのか迷いながらのチャレンジだった。 「昨年11月まで、古いフォームを捨てきれなかった。1歩下がって2歩進むような改造だった」と国枝は振り返る。 一気にグリップの握り方を変えるのではなく、少しずつずらしながら新しいフォームを試すような日々。順位ポイントのプレッシャーがある試合に出場しながらの改造だった。そのため思い切った変更ができなかった。新しいグリップでも、スイングの軌道は昔のままという中途半端な状態だった。


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