「車いすバスケ」は知れば知るほどおもしろい!
東京2020パラリンピックで男子日本代表チームが銀メダルを獲得! 人気と注目を集める車いすバスケットボール。チラリと見ただけでも、車いすがぶつかり合う迫力に魅了される。そして、その深い部分を知れば知るほど、おもしろさが見えてくると言う。元日本代表・森紀之さんに解説してもらった。※『パラスポーツマガジンVol.11』(2022年8月発売)に掲載された記事です。
●解説:森紀之/車いすバスケットボール日本代表として、アテネ、北京のパラリンピックに2大会連続して出場。テレビ中継でのわかりやすい解説に定評がある。ケイアイスター不動産(株)ケイアイチャレンジドアスリートチーム所属。
●取材・文/長沢 潤 写真/堀切 功、吉村もと
車いすがぶつかる衝撃音。選手のチェアワークに圧倒される!
魅力としてまず挙げられるのは、車いすが動くスピード感でしょう。よく驚かれるのが、そうしたスピードの中で選手がぶつかり合うことです。意図的にぶつかるのはファウルですが、車いす同士がぶつかって転倒することはよく起こります。ケガを心配されますが、ぶつかるほうもぶつかられるほうも「ぶつかる」とわかっているときは平気ですね。転びそうとわかっていれば準備できますから。相手の間をすり抜けたりするチェアワークにも目を見張るものがあります。たとえば全力ダッシュの際、車いすの先端を目標ラインに合わせて止まるのか、車輪を合わせて止まるのかなど細かく気を遣いながら練習することで、身につけているんです。片輪を上げるティルティングという技術を使ったシュートなど高度な技術もあり、習得に時間がかかるので選手寿命が長くなるということもありますね。
コートの広さやリングの高さは同じ。特徴的な「持ち点制」
通常のバスケコートと、広さやリングの高さはまったく同じです。座った状態なのでゴールがただでさえ遠くなっているのですが、膝や腰を使ったりジャンプができないため、シュートには腕のパワーと体幹が必要になります。体幹が使えない障がいの重い選手は、いったん背中に体重をかけて戻す反動を利用する技術も使って、距離を出しています。ルールの特徴としては、選手がボールを持っているときのプッシュ(車いすを手でこぐ)は連続2回までで、3回以上プッシュするとトラベリングの反則になります。またダブルドリブルがなく、プッシュ2回以内でドリブルすれば再度プッシュしてもOKです。もう一つの特徴が持ち点制です。選手には一人ひとり障がいに応じた持ち点があり、コート内の5人の持ち点合計を14点以内にしなくてはならないのです。このルールがゲームをよりおもしろくしています。
各ポジションの特徴と役割を知ろう
車いすバスケでも、ポジションは健常者のバスケと同じです。大きく分けると「ガード」「フォワード」「センター」です。センターはインサイド(ゴール下のこと)にいて、ゴールを決める役割。フォワードは細かく分けると2つに分かれ、パワーフォワードはセンターと同じくゴール下にいて、相手とリバウンドを競り合ったりする役割。もう1つがスモールフォワードで、ゴール下でもアウトサイド(ゴール下ではないエリア)でもプレーする選手です。ガードも役割によって2つに分かれ、1つが一般的に得点能力が高い選手が起用されるシューティングガード。もう1つがボールを運び、攻撃の組み立て役になるポイントガードです。 ただ、選手としてはポジションはあまり意識していなくて、どの役割もやっているというチームが多いと思います。
選手の持ち点と特徴を予習しておけば、観戦が100倍おもしろくなる!
先ほど、持ち点制について触れました。コート上の5選手の合計点を14点以内にしなければならないため、障がいの軽い人ばかりでチームを構成できません。選手をどう組み合わせるかというところに、チームの戦い方についての考えが表れます。基本的にはハイポインター(持ち点の大きい選手)にはハイポインター、ローポインター(持ち点の小さい選手)にはローポインターがマークにつきます。そこで攻撃側は、ハイポインターに対して相手のローポインターが応対する状況(ミスマッチ)を作って優位に立とうとします。その駆け引きがわかるようになると観戦の上級者になれます。また、車いすバスケの独特な要素として、シュートがうまい選手が打ちやすいように動く選手がいることが挙げられます。シュートがうまい選手を活かすためのプレーは、ローポインターが行うことが多いですが、まさに玄人好みと言えますね。