Home > Interview >  悲願の世界一! デフフットサルW杯を制した日本女子代表チーム山本典城監督インタビュー(全3回/第2回)
  悲願の世界一! デフフットサルW杯を制した日本女子代表チーム山本典城監督インタビュー(全3回/第2回)

悲願の世界一! デフフットサルW杯を制した日本女子代表チーム山本典城監督インタビュー(全3回/第2回)

11月9日~18日、ブラジルで開催された第5回ろう者フットサル世界選手権大会(デフフットサルワールドカップ2023)。世界一を決めるこの大会で、日本女子チームが見事に優勝を果たした。代表チームの山本典城監督のインタビューをお届けする。(全3回/第2回)

取材・文/編集部 写真協力/一般社団法人日本ろう者サッカー協会 取材協力/ケイアイスター不動産株式会社

――予選2試合を1勝1分けで、3戦目の相手がアルゼンチン。この試合から体調不良で前の2試合に出られなかった酒井藍莉選手が戻ってきて、岩渕亜依選手、阿部菜摘選手、中井香那選手と、ゴールキーパーの芹澤育代選手がスタメンでした。

山本典城監督(以下同) 自分の考え方として、スタメンにあまりこだわりはないんですけど、ゲームに入って行く流れの中で、一番バランスが取れるフィールドプレーヤー4人だったと言えると思います。中井はディフェンスでしっかり相手にプレッシャーをかけられる選手だし、酒井は後ろでバランスを取れる。その両サイドに経験のある岩渕と阿部を置いて、あまり波が出にくい4人ではあるので。そこはこの4年間積み重ねてきた中でスタートしていくっていうのが一つの流れとして積み上がってはいたので、酒井が試合に戻った時点でそこに戻しました。キーパーに関してはここまで出場のなかった芹澤を起用しましたが、GKコーチの松原とも話をする中で、今後の試合のことも考えてこのタイミングで一度起用する形を選びました。キーパーに関しては國島、芹澤ともに高いパフォーマンスを維持できていたのでとくに心配はありませんでした。

――アルゼンチンはどのようなチームだったのでしょうか。

アルゼンチンについては、正直、事前の情報がなくて、どれくらいできるんだろうというのは未知数だったんです。でも、開幕戦のブラジル対アルゼンチンを見て、組織的な部分の構築は全然できていないなと感じました。とはいえ1人1人を見ると、技術を持っている選手が何人かいましたね。それと南米特有の負けず嫌いの気質というか、やはり気持ちの部分はうまい下手に関係なくピッチで出せる選手がたくさんいるチームではあったので、簡単な試合にはならないとは思っていました。それでも、自分たちがやるべきことをしっかりとやれば勝ち点を取れる試合だと考えていました。

――4対0と完勝でした。

ドイツ戦で少し流れを止めてしまった部分を、アルゼンチン戦でしっかり勝って取り戻すというところも結構意識してはいました。ですので、ディフェンスに関しても、しっかり前から行きました。ドイツ戦とは打って変わって、この試合は確実に勝ち点3を取りに行くっていうことを明確に選手にも伝えて試合に入ったので、それが実際に結果としても出たのかなと思います。とはいえ、もっと点は取れましたけどね、チャンスはたくさんあったので。

――アルゼンチンにいい形で勝った後、続くアイルランド戦は1対1の引き分けでした。

この試合は大会の中でも日本のターニングポイントでした。アイルランドは日本とやるまでは全敗していたんです。普通にやるべきことをやれれば、問題なく勝ち点が取れるだろうと思っていました。それに、この試合に勝てば日本の決勝進出、つまりデフフットサル史上初のメダルが確定するという状況の中での試合でもありました。それが引き分けに終わってしまい、おごりみたいなものはチームの中には決してなかったはずだったんですが、蓋を開けてみると全然走れてなくて。走れていないと、チャンスをたくさん作っても決められない。試合全体として、選手たちの気持ちが空回りしていたというか、気持ちがあまり伝わってこない状態でしたね。

――想定外の悪い出来で引き分けてしまったと。

たしかに暑さもあったんですけど、なんでだろうっていうところは、試合中でも常に自分で考えながらやっていましたね。ただ、実力差はあったので、先制点を決めてからずっと日本が支配していた中で、最悪このまま1対0で終わるだろうなという思いもありました。でも、そこが隙でもあったと思うんですよね。1対0から追加点を奪えなくて、結局、最後残り30秒ぐらいで相手に取られてしまったんです。この状況でこのシュートはないだろう、っていう点の取られ方でしたけど。

この試合が引き分けに終わって、それですべてが終わったわけではなかったんですけど、本来であればアイルランドに勝って決勝進出を決めて、次の予選最後のブラジル戦は決勝戦を想定した上でいろいろな戦い方ができるなっていうことは考えていました。ブラジル戦の勝敗に関係なく決勝へ上がれる状況を作れていたはずなのに、それを取りこぼしてしまったわけです。それはもう全員がわかっていましたし、試合後は一気に天国から地獄に落ちるような状況に陥ってしまった雰囲気がありました。当然、切り替えてやるしかないとチームには伝えたんですけど。

ホテルに戻って何が良くなかったのかということをいろいろ振り返りました。それで、アルゼンチン戦でももっと点が取れたはずだというのもあったんですけど、アイルランド戦の引き分けの要因として、チームが一つになれていなかったというのを感じたんです。そして、選手同士の中でも、お互いを信じあえていない、結果一つにまとまっていなかったという話が試合後に出てきました。チームがバラバラの状態で簡単に勝てるような舞台ではないので、まとまりが大切だということはこれまで散々積み重ねてきたはずなのに、本番でそれが崩れるようなことが起きてしまうんだって思って。かなりしんどい状況でしたね。

次のブラジル戦までは中一日あったので、まずはとにかく選手だけで腹を割って話すように指示しました。全員、1人1人が思っていることをぶつけるように。デフフットサルの女子の未来を考えた時に、世界の中でしっかりと結果を出していくチームに成長するためには、仲よしこよしでは到底勝てないレベルにきていますし、日本代表という日の丸を背負っている場所で、たくさん応援していただいている中で、責任の部分も含めて厳しさは自分たち自身でも作って、そういうチームにならないとこれ以上の成長は見込めないと思っていましたので。このタイミングでこれを選手に求めることで、逆にチームが崩壊してしまうかもしれないというリスクも考えましたけど、ここをみんなで乗り越えることができなければ、ブラジルに勝つ可能性は低くなると思いました。

――監督としても判断が難しい状況だったのですね。

本当に賭けじゃないですけど、選手たちがこれまで積み重ねてきた思いとか、この大会にかける思いの方が勝ると思ったんです。そこでやっぱりみんなもう1回、一つにまとまれる。選手たちを信じてやらせました。それが良い方向に出て、次は選手にスタッフも交えてブラジル戦のスカウティングのミーティングの前にみんなで腹を割って話して、全員でもう1回本当に一つになろうと言ってブラジル戦に臨んだんです。

アイルランド戦の引き分けは、今大会のターニングポイントだったことは間違いないです。この引き分けにも意味があるんだなっていう。結果論なんですけど。アイルランドに簡単に勝って決勝へ行っていたら、多分負けていたと思うんですよね。それぐらい大きな出来事ではありました。(第3回へ続く)

山本典城(やまもと・よしき)
大学までサッカーをプレーした後、フットサルに転向。2013年からデフフットサル日本女子代表チームの監督を務める。今回のワールドカップでチームを優勝へと導き、最優秀監督賞を受賞した。1975年生まれ、奈良県出身。



pr block

page top